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Johann Michael Rottmayr『テセウスに糸を手渡すアリアドネ』
記事URL  カテゴリ | ギリシア神話絵画 | 2011年08月01日(月)13時42分 | 編集 |
2011年8月1日(月)


目次
1. クレタ島へ向かうテセウス
2. アリアドネとの出会い
3. 神話を学ぶ意義
4. アリアドネの秘策
5. 原題


今回取り上げる作品は、Johann Michael Rottmayr作『テセウスに糸を手渡すアリアドネ』です。

2011年8月1日Johann Michael Rottmayr『テセウスに糸を手渡すアリアドネ』311

1. クレタ島へ向かうテセウス


メディアがアテナイから逃亡した後、晴れてアテナイ王子となったテセウスは、父王アイゲウスからクレタ島における生贄の話を聞かされます。

そして、事情を理解したテセウスは、ミノタウロスを退治するために、自ら志願してクレタ島へと赴くことにしました。

出発直前の親子の約束として、テセウスが首尾よくミノタウロスを倒して、アテナイへ帰還できた場合には、船に白い帆を上げることにしました。

もし、テセウスがミノタウロスに殺されて、アテナイへの帰還が叶わなかった場合は、従者たちが船に黒い帆を上げることにしました。


2. アリアドネとの出会い


クレタ島に到着したテセウスは、クレタ島の王ミノスに謁見し、自分がミノタウロスを倒した場合は、アテナイから生贄を送る約束は、今回で打ち切りにして欲しい旨を伝えました。

会見に同席していたクレタ王女アリアドネは、テセウスの堂々とした立ち居振る舞いを見て、一目惚れします。

アリアドネは、アテナイで亡くなったアンドロゲオスの妹でしたね。

アンドロゲオスの死については、2011年7月31日(日)の記事『ウィリアム・ラッセル・フリント『テセウスに毒杯を差し出すメディア』 loro2012.blog.fc2.com』を参照して下さい。

アリアドネからすれば、テセウスは、兄アンドロゲオスを殺した敵国アテナイの王子だったわけですが、恋に国境などありません。

敵国の王子テセウスに恋したアリアドネは、祖国を裏切り、テセウスに加担することを決意します。

アリアドネのこうした決意やその後の行為は、政治的には断じて許されません。

しかし、神話や文学を学んだ者は、女性の多くが、政治的な思惑よりも恋心を優先することを、知っているはずです。

古今東西、恋する女性には、守秘義務の厳守とか国家防衛戦略への理解などというものを、期待してはいけませんね。

女性にとっては、そんな小難しいことよりも、愛する男性が、望んだ通りの生き方をしていくことの方が大事なのです。

まあ、トロイの王子パリスの例にもあるように、恋する男性も、同じですけどね。
パリスとヘレネの話は、いずれ取り上げます。


3. 神話を学ぶ意義


私たちが神話や文学をなぜ学ぶのかというと、一つには、人間の本質を知るためです。
この世には、政治的な意義や法律だけでは割り切れない世界があり、恋愛はその最たるものです。

神話や文学に登場する主役たちの生き方を学ぶことを通じて、恋愛や男女の秘め事など、人生の機微に触れることが出来るようになります。

もちろん、本を読んで知識を身につけただけでは、そのまま実践に役立つかどうかは未知数です。

しかし、この世の全てに対して、事前の準備をせずに、体当たりで突進して行くよりは、神話を学んで、知識を身につけて、人生の機微とは何かをある程度理解して、他者と接した方が、人間関係を円滑に運べるのではないかと思います。

「虚構の文学」から学べるものは、その世界に触れたことのない人が想像している以上に、多種多彩なのです。

人の生活を便利にする理科系の学問も、もちろん人類にとって必要不可欠ですが、私は「虚構の文学」への関心や理解が、人として生きる上で極めて重要だと実感しているので、このようなブログを毎日書いているわけです。

恋愛やセックスだけが人生の全てではありませんが、恋愛やセックスから得られる快楽を全面否定すると、人情の機微への理解が浅くなるのも、事実だと思います。


4. アリアドネの秘策


さて、テセウスは、生贄として、捕虜同然の立場でクレタ島へやって来ましたので、剣などの所持品はミノスに会った時に、全て没収されました。

そして、ミノスの命令で、テセウスたちは、迷宮に入る前に、一旦、牢屋に入れられ、一夜を過ごすことになりました。

テセウスに生きて迷宮から脱出して欲しいと考えたアリアドネは、父王ミノスの目を盗んで、牢屋に閉じ込められたテセウスに会いに行き、赤い糸の玉を渡します。

たとえ迷宮であろうとも、入り口に糸の片方を縛り付けておき、奥深く入り込むまでその糸を離さずに持っていれば、戻る時にそれを頼りにして、首尾よく脱出できるというわけです。

アリアドネは、機転の利く女性だったんですね。

また、アリアドネはミノタウロスを退治するための短剣も、テセウスに渡しました。
所持品を没収されたテセウスは、武器と呼べるものは何も持っていません。

そんな手ぶらのテセウスを見て、いかに強靭な肉体の持ち主でも、ミノタウロスに素手で立ち向かうのは無謀であると、アリアドネは判断したのです。

アリアドネは、相手が何を必要としているのかを、短時間で見極める才能があったわけですね。

しかも、その必要な物をちゃんと調達して、警備の目をすり抜けて、愛する人の元へ届けるという勇気も持ち合わせています。

牢屋にいるテセウスに、糸と剣を手渡すことに失敗して、警備に捕まった場合、たとえ王女とはいえ、ただでは済まなかったでしょう。

社会を良くするために、体を張って難敵と戦うのは男の使命ですが、男が戦いやすい環境を事前に整え、影で支えるのは、女性の役目であるという考え方が、古代ギリシアの時代にもあったということでしょうね。

オーストリアの画家Johann Michael Rottmayr(1656-1730)が描いているのは、アリアドネがテセウスに赤い糸を手渡している場面です。

向かって左の、オレンジ色の衣装を身につけているのがアリアドネです。

アリアドネは、右手には赤い糸玉を持ち、糸の先は左手を経由して、テセウスの右手へとつながっています。


5. 原題


Johann Michael Rottmayrが描いた『テセウスに糸を手渡すアリアドネ』は、英語ではAriadne Handing Theseus the Threadと言います。

この作品は、ウィーンにあるリヒテンシュタイン美術館(Liechtenstein Museum)で見ることが出来ます。





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