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ウジェーヌ・ドラクロワ『天使とヤコブの闘い』
記事URL  カテゴリ | 旧約聖書絵画 | 2012年06月27日(水)20時25分 | 編集 |
2012年6月27日(水)


目次
1. ハランを去るヤコブ
2. カナンへの帰途
3. ヤボク川での決闘
4. 原題


今回取り上げる作品は、ウジェーヌ・ドラクロワ作『天使とヤコブの闘い』です。

2012年6月27日ウジェーヌ・ドラクロワ『天使とヤコブの闘い』407

1. ハランを去るヤコブ


異国の地ハランで、晴れてラケルと結婚したヤコブは、その後、一緒に暮らすラバンやその息子たちから、様々な嫌がらせを受けていました。

いつの時代でも、どの民族でも、よそ者に対する排除行動や陰湿ないじめが横行しているということは、それらは人間の本能なのかも知れません。

本能だとすれば、その本能は倫理上、間違っているのですが、間違っていても止められないから本能だと言えるわけですね。

ギリシア神話や聖書を学ぶと、この世の限界や人間の限界が見えて来て、絶望的になってしまいます。

それでも、諦めずにこの世を良くして行く努力を続けるのが、私たち大人に課せられた使命なのですが、その努力の道のりは、途方も無く長く、どれだけ歩んでも一向に終着点が見えないので、途中で息切れする人の方が多いわけです。

さて、執拗な意地悪をされて、ついに我慢の限界に達したヤコブは、家族を連れて故郷のカナンへ戻ることをラバンに申し出ます。

ところが、義父ラバンは、ヤコブの帰郷案に対して、色好い返事をしませんでした。
ラバンは、奴隷的労働力の担い手としてのヤコブを、手放すつもりがなかったのでしょうね。

そうしたラバンの真意を見抜いていたヤコブは、ラバンの許可なしでハランを去ることにしました。

人間関係が決裂しても構わないと腹を括る場合は、自分の行為に対する相手の許可など、いらないわけです。

ヤコブは、かつて、兄エサウと決裂し、今また、義父ラバンとも決裂しました。
ただ、決裂したからといって、ヤコブに協調性がなかった、と断じることは出来ませんね。

ヤコブに対して不誠実だったのは、エサウやラバンの方です。

諍(いさか)いの原因を作った者が罰せられるべきですので、本来であれば、エサウやラバンが経済的にも肉体的にも追い込まれるべきです。

ところが、この世は必ずしも、正が邪に勝つわけではないのです。

邪の側がのうのうと生きる一方で、正の側が塗炭の苦しみを被ることが往々にしてあるのが、この世なのです。

この世の不条理は、旧約聖書の時代から延々と続いているわけですね。


2. カナンへの帰途


ヤコブは、二人の妻、レアとラケル、及び子供たち、さらには彼が所有する多くの家畜を連れて、一路カナンの地を目指します。

ヨルダン川に差し掛かったあたりで、ヤコブ一行は、川のほとりで夜営することにしました。

ヤコブはカナンへ入る前に、兄エサウとの人間関係を修復する必要性を感じていました。

そもそもヤコブがハランまで逃げて行ったのは、長子権を失ったエサウによって殺される危険を回避するためでした。

あれから20年が経過しているとは言え、エサウの恨みが消えていない可能性も高い、とヤコブは判断しました。

そこで夜が明ける前に、従者たちをヤギやラクダなどと共に、一足先にカナンへと送り出すことにしました。

ヤコブが引き連れて来た数多くの家畜は、今後は、全て兄エサウのものであり、ヤコブとしては兄と争う意志がないことを表明するためです。

従者たちの出発を見送った後、ヤコブは残った妻二人と子供たち、そして側女たちと一緒に、夜が明ける前にヤボク川を渡ることにしました。

ヤボク川はヨルダン川の支流で、現在のザルカ川に同定されています。


3. ヤボク川での決闘


ヤコブ以外の全員が、夜のヤボク川を渡り終えた後、ヤコブだけがまだ川を渡らずに、川岸に残っていました。

ヤコブがこれから川を渡ろうとした時、何者かがヤコブに組みついてきました。
闇の中でヤコブは、誰だか分からない相手と格闘します。

両者一歩も譲らず、二人の格闘は夜明け近くまで続きました。
間もなく夜が明けるという時間帯になった頃、相手は格闘を中止し、身分を明かします。

「私は天使である。お前はこれからイスラエルと名乗るが良い。」

そう言い残して、天使は消えました。
イスラエルとは、神に勝った者、という意味で、現在のイスラエルの国名の由来となっています。

ウジェーヌ・ドラクロワ(1798-1863)は、ヤコブが有翼の天使と戦っている場面を描いています。

向かって右で、下を向いて、前のめりになっているのがヤコブです。
向かって左に描かれた天使は、後退(あとずさ)りしながらも、余裕の表情を浮かべています。

時間帯は夜明け前ですので、ヤコブには相手の姿が見えてはいません。


4. 原題


ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugène Delacroix)が描いた『天使とヤコブの闘い』は、フランス語ではLa Lutte de Jacob avec l'Angeと言います。

la lutteが、格闘、という意味です。
この作品は、パリにあるサン=シュルピス教会(L'église Saint-Sulpice)が所蔵しています。





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