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モニカ・ベルッチ主演映画『マレーナ ディレクターズ・エディション』を見た感想
記事URL  カテゴリ | 外国映画 | 2013年06月01日(土)16時56分 | 編集 |
2013年6月1日(土)


今回の記事には露骨な性的表現が含まれています。
性的表現に対して心的なストレスを感じる方は、読まないことをお勧めします。

目次
1. 反ムッソリーニの作品
2. 売春婦を毛嫌いする女性たち
3. 女性を守れない若さへの苛立ち


1. 反ムッソリーニの作品


レンタルDVDで、モニカ・ベルッチ主演の映画『マレーナ ディレクターズ・エディション(原題:Malèna)』を見ました。

2013年6月1日モニカ・ベルッチ主演映画『マレーナ ディレクターズ・エディション』を見た感想1 252


主人公のマレーナを演じるモニカ・ベルッチの肉体美に注目が集まった映画ですが、ジュゼッペ・トルナトーレ監督が最も言いたかったことは、美女の熟れた肉体ではなく反ファシズムだと思います。

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作品はベニート・ムッソリーニがイタリアの首相になりアドルフ・ヒトラーと手を組んで軍国主義をイタリア国民に押し付けていた時代に、シチリア島で暮らしていた12歳の少年レナートの視点から見たマレーナの人生を描きます。

マレーナは、夫が出征しやがて戦死したという悲報を受けて未亡人として暮らしている美貌の女性です。

若く美しいマレーナの周囲にはいつも男性が集まり、レナートのような少年たちもセックスの初体験の相手としてマレーナを妄想する毎日です。

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マレーナは男性陣からの熱愛を受け流す一方で街の女性たちからは猛烈な嫉妬を買い、美人であるが故に孤立した日常生活を送ることを余儀なくされていきます。

レナートにとってはいつも孤独に暮らすマレーナがむしろ神秘的な存在として映り、マレーナの室内を壁の穴から覗き見する日々を送ります。

さらにレナートはマレーナの私生活を覗き見しているだけでは飽き足らず、マレーナが干している黒いパンティを庭先から盗んで自宅に持ち帰り、夜そのパンティに頬ずりしたり股間部分の匂いを嗅いだりしながら連日オナニーに耽ります。

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2. 売春婦を毛嫌いする女性たち


次第に戦況が悪化する中でシチリア島にも空爆が行われ、マレーナの父親が空襲の犠牲となって死亡します。

戦争によって夫と父親の両方を失ったマレーナは生活費に困窮し、間もなく同胞としてシチリア島に乗り込んで来ていたナチスドイツの軍人たちに体を売って生計を立てて行くことになります。

そんなマレーナの売春婦としての生き方を見て、街の女性たちは陰口を叩き貞操観念の欠如を囁き合って、男性からの評価を下げようと躍起になります。

マレーナは周囲からどんなに冷たい視線を浴びようとも、生きて行くための手段は美貌を生かした売春しかありませんでした。

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やがて戦争は終結し、アメリカ軍が勝利者としてシチリア島に進駐して来ました。

時代は一夜にして変わり、同胞だったはずのナチスドイツに協力的だった人物たちが非国民の烙印を押される社会に変貌し、その憎悪の矛先がマレーナにも向けられました。

美貌のマレーナをナチスの協力者として糾弾し、公開集団リンチを行ったのは街の女性たちです。

長時間に渡り男性たちも見守る中で、マレーナを引きずり回し殴る蹴るの暴行を加え、挙げ句の果てには美貌の象徴である髪の毛をハサミで切り刻むという虐めを行います。

マレーナは戦争が終わった後の自分の処遇について覚悟していたため、苦痛と屈辱に泣き叫びながらもリンチが終わるまでじっと耐え続け、抵抗する姿勢は一切見せませんでした。

少年レナートもこのリンチ現場に立ち会っていましたが、無力故に口出しすらも出来ず、憧れのマレーナが乳首を晒し口からは血を流し、体中傷だらけになって行く様子を黙って見つめるしかありませんでした。

戦争は戦地に赴かない一般人の人格すらも変えてしまい、日常的な嫉妬心が解き放たれた瞬間に弱者をリンチするところまで行ってしまうわけですね。

戦争及び敗戦という事態がなければ、街の女性たちもここまでマレーナをいたぶることはなかったと思いますが、生来の美貌があるお陰で男性からの求愛が絶えることのないマレーナに対して、不美人である大多数の女性たちは「いつか落ちぶれろ」という歪んだ感情を抱き続けていたということです。


3. 女性を守れない若さへの苛立ち


ファシズムは全体主義とも訳されますが、街の女性たちがマレーナに対して行った公開リンチは、シチリアという共同体に暮らす人々の心の中に刷り込まれた全体主義思想を具現化したものです。

トルナトーレ監督は個人主義を許容しない集団に狂気が吹き込まれ、いったん暴走し始めるともはや歯止めが効かなくなることを描き、マレーナの豊満な乳房を象徴的に用いて反ファシズムを訴えます。

女性たちに暴行され続けるマレーナが地面に這いつくばったり起き上がったりする度に、薄汚れた乳房が何度も上下左右に揺れる様子に人々の注目が集まり、誰もが羨む美女が落ちぶれた瞬間を街全体で見届けるというファシズムが実践されているわけですね。

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無力な少年には、苦境に陥ったマレーナを守ることなど出来るはずもありません。

レナートに出来ることは自室でマレーナの裸体を思い浮かべながらオナニーをするか、別の女性とセックスしていながらその女性をマレーナだと思い込むか、あるいはマレーナが心身ともに傷ついて行く様を距離を置いた場所から見つめ続けることぐらいです。

若さの本質は徹底的な無力であり、その一方で強烈な性欲だけは一人前の大人並みに襲いかかって来るのです。

多くの男性はこの虚しさを心に秘めて大人になって行くわけです。

私たち「普通の男性」は劇中でレナートがしたような下着泥棒などもちろんしませんが、「マレーナ」という存在に出会い、憧れ、セックスの対象として捉え、綺麗なお姉さまの下着姿や全裸姿を妄想するというぐらいのことは思春期に経験しているものです。

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この映画は10代前半の少年が性に目覚め、日夜押し寄せる性欲に抗うことが出来ず、偶然身近に存在している「美女」を常にセックスの対象として見ているという事実を映像化したものであると言えます。

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モニカは前半は伏し目がちで清楚な未亡人を演じ続け、後半では暴行を受けて泣き叫ぶ娼婦を演じ、最終盤では夫と共に暮らす普通の主婦を演じています。

3種類の人格を演じ分けるのは容易ではなかったと思いますが、全編を通じて見事な演技力を示していたと思います。


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