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ローレンス・アルマ=タデマ『ヒッポリュトスの死』
記事URL  カテゴリ | ギリシア神話絵画 | 2011年08月12日(金)15時42分 | 編集 |
2011年8月12日(金)


目次
1. 恋愛やセックスは悪か?
2. お姉さまに童貞を捧げるのはそんなに嫌か?
3. ヒッポリュトスの最期
4. アプロディーテの勝利
5. なぜアルテミスはヒッポリュトスを助けなかったのか?
6. 死後のヒッポリュトス
7. 原題


今回取り上げる作品はローレンス・アルマ=タデマ作『ヒッポリュトスの死』です。

2011年8月12日ローレンス・アルマ=タデマ『ヒッポリュトスの死』 Hippolytus_Sir_Lawrence_Alma_Tadema


1. 恋愛やセックスは悪か?


ポセイドンはヒッポリュトスに天罰が下るよう祈ったテセウスの願いを聞き入れ、ヒッポリュトスの命を奪うことにします。

無実の罪によって色情狂の烙印を押されアテナイの街を追放されたヒッポリュトスは、ひとまず曽祖父(そうそふ)ピッテウスが暮らすトロイゼン宮廷に戻ることにしました。

ヒッポリュトスは馬に乗って海岸沿いを進みながら、恋やセックスを人生最大の関心事としていくつになっても希求し続ける人間たちの愚かさを考えていました。

今回の事件はヒッポリュトスからすれば自分に恋焦がれたパイドラこそが悪の張本人あって、パイドラに指一本触れたこともない自分には全く落ち度はありません。

パイドラはヒッポリュトスと初めて会った時、ヒッポリュトスが女性に対して冷淡な態度を取る様子を見て彼がまだ童貞であることを確信します。

そして、自分がヒッポリュトスにとっての初めての女性になろうとしたわけです。

初対面の男を前にして表向きの清楚な態度とは裏腹にそのようなことを頭の中で考えているパイドラは、ヒッポリュトスにとっては悪でしかないのです。


2. お姉さまに童貞を捧げるのはそんなに嫌か?


多くの男性にとってはセックス経験が豊富な「お姉さま」に優しく手ほどきを受け初めてフェラチオをしてもらい童貞を失うのは願ったり叶ったりなのですが、ヒッポリュトスはその対極に位置する男ですので自分の童貞を奪おうと考えている女性は敵であり忌み嫌うべき存在でしかないのです。

もったいない話です。

ヒッポリュトスにだって性欲は人並みにあるわけですから素直になれば良いだけなのにアルテミス崇拝に固執(こしゅう)しているため、特に色気を振りまく女性に対して敵意の眼差しを向けるようになっていったわけです。

一般論として10代後半の男にとって20代半ばの綺麗なお姉さまは憧れの存在であり、20代前半の男にとって30過ぎの綺麗なお姉さまは是非とも仲良くなっておきたい存在なのですよ。

それから30代前半の男にとっては自分よりも年上の綺麗なお姉さまは既婚未婚を問わず遠くからいつも見つめていたい存在であり、女性たちが想像している以上に男たちはムンムンと漂う女の色香に惹きつけられて行くものなのです。

そんなお姉さまに言い寄られたら男としては拒む理由などありませんね。
まさにジョン・F・ケネディ状態です。

まあ、それはともかく・・・。

ヒッポリュトスはパイドラが溜まった性欲を抑え切れずに夫の留守中に義理の息子を愛人にしようと企み、偽りの遺書を残して勝手に自殺しただけだと捉えていました。

そして自分を不幸に陥(おとしい)れたパイドラと、ろくに調査もせずに自分を犯人だと断定したテセウスを絶対に許さないと誓います。

しかも色情狂のパイドラをセックスパートナーとして来たテセウスのことを愚の骨頂であると断じ激しく嫌悪しました。

さすがはアルテミスの信者ですね。
ここまで来ると偏執的とも言えるセックス否定論者で私にはとてもついていけません。


3. ヒッポリュトスの最期


間もなく、ヒッポリュトスは突如として海上から猛牛が現れるのを目にしました。
そして、その暴れ牛はヒッポリュトスに狙いを定めて猛烈な勢いで突進して来たのです。

ヒッポリュトスは逃げ出す暇(いとま)もなくその猛牛に股間を突かれて、断末魔の叫びと共にあっけなく命を落としました。

イギリスの画家ローレンス・アルマ=タデマ(1836-1912)はヒッポリュトスが落馬して死んでいく場面を描いています。


4. アプロディーテの勝利


ヒッポリュトスはセックスの快楽を否定したことでアプロディーテの恨みを買い無実の罪に陥(おとしい)れられ、挙句の果てには命を落とすハメになりました。

アプロディーテやポセイドンの魔力がヒッポリュトスを死に至らしめたことは紛れもない事実です。

ということは、結果的にはヒッポリュトスが熱烈に信仰していた処女神アルテミスはヒッポリュトスを守護してはくれなかったということになりますよね。

ヒッポリュトスはかねてよりアルテミスの信奉者であり彼が女性やセックスを一切拒絶する生き方はアルテミスの目には好ましいものに映っていたはずです。

アルテミスは異性を毛嫌いして異性から話しかけられることすらも拒み、セックスの欲望を抑え込んで生きる人間たちを数多く増やしたいわけです。

そんなアルテミスにとってはヒッポリュトスのような「正しい」生き方を貫こうとしている信者が死んでしまうのは大きな痛手のはずなんです。

ところがアルテミスはアプロディーテの呪いを事実上黙認し、ヒッポリュトスの命や名誉を守ることはしませんでした。


5. なぜアルテミスはヒッポリュトスを助けなかったのか?


処女神アルテミスがヒッポリュトスの命を守らなかったということは、やはり人類を繁栄に導く根本行為であるセックスを真っ向から否定するという思想は、何世代にも渡って地域社会を構成していこうとしている古代ギリシア人にとって受け入れ難いものであるという社会通念が物語の中に反映されているのだろうと思います。

真実は神話や小説の中にあります。

ノンフィクションの中に書くことが憚(はばか)られる出来事や思想は、神話や小説の登場人物を介して後世に伝えられていくものなのです。

このことは絶対不変の真理と言えるでしょう。

どの民族の大人たちも若い世代に向けて言うに言えないことは、神話や小説の形を借りて語り継いで来たのです。

その点では、神話や小説には人類の英知が詰まっていると言えるでしょう。

もちろんノンフィクションにはノンフィクションの大事な役割があるわけですが、人間の本質は神話や小説の中にその答えが隠されているのです。


6. 死後のヒッポリュトス


なお、ヒッポリュトス殺害の様子を天界から見ていたアルテミスはアスクレピオスに死んだヒッポリュトスを蘇生してもらうよう依頼しました。

ヒッポリュトスはアスクレピオスの医術によって生き返り、その後、アルテミスによって神としての地位を与えられたと言われています。

アスクレピオスについては2011年5月7日(土)の記事『ドメニキーノ『コロニスを殺害するアポロン』 loro2012.blog.fc2.com』を参照して下さい。


7. 原題


ローレンス・アルマ=タデマ(Lawrence Alma-Tadema)が描いた『ヒッポリュトスの死』は英語ではThe Death of Hippolytusと言います。

この作品は個人所蔵となっています。







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