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フランツ・フォン・シュトゥック『スフィンクス』
記事URL  カテゴリ | ギリシア神話絵画 | 2011年07月24日(日)16時41分 | 編集 |
2011年7月24日(日)


目次
1. リュコスとアムピオン
2. 少年クリュシッポス強姦事件
3. クリュシッポス殺害事件
4. ただ一度の過ち
5. 捨て子事件
6. 腫れた足
7. 噂と神託
8. ライオスの懲りない男色癖
9. 原題


今回取り上げる作品は、フランツ・フォン・シュトゥック作『スフィンクス』です。

2011年7月24日フランツ・フォン・シュトゥック『スフィンクス』+Franz_von_Stuck_Sphinx_convert_20121211164220

1. リュコスとアムピオン


今日から、オイディプスの話に移ります。

オイディプスは、テーバイの王ライオスとその妻イオカステとの間に生まれた息子です。
オイディプスの先祖を辿ると、イオに至ります。

系譜を示します。

イオ→エパポス→リビュエ→アゲノール→カドモス→ポリュドロス→ラブダコス→ライオス→オイディプス


まずは、ライオスの話から始めます。

王ラブダコスが死んだ時、王子ライオスは、まだ1歳でした。
そこで、リュコスがテーバイ王権を簒奪したのです。

リュコスは、ライオスの曽祖父ニュクテウスの弟にあたります。
系譜を示します。

ニュクテウス→ニュクテイス→ラブダコス→ライオス


ニュクテウスやリュコスについては、2011年7月13日(水)の記事『ジャン=バプティスト・マリー・ピエール『ジュピターとアンティオペ』 loro2012.blog.fc2.com』を参照して下さい。

その後、リュコスは、アンティオペの息子アムピオンによって殺され、アムピオンは、テーバイ王の座に就きます。

王となったアムピオンは、先王ラブダコスの血を受け継ぐライオスの存在が邪魔になり、テーバイ宮廷から追放します。


2. 少年クリュシッポス強姦事件


テーバイの地を離れたライオスは、ペロポネソス半島の王ペロプスを頼ります。

ペロプスについては、2011年6月30日(木)の記事『ジョアッキノ・アッセレート『タンタロス』 loro2012.blog.fc2.com』を参照して下さい。

ペロプスの館で暮らすようになったライオスは、ペロプスの非嫡出子クリュシッポスの家庭教師を務めていました。

クリュシッポスの母親は、ニンフのアクシオケです。

やがて、ライオスは、少年クリュシッポスに恋情を抱くようになり、ついには強姦してしまいます。

強姦と言っても、男同士の性交です。

ライオスは、嫌がるクリュシッポスを組み伏せ、勃起したペニスを肛門に挿入し、射精したわけですね。

ライオスの行為は、常軌を逸しています。
しかも、ライオスは家庭教師という、一般人よりも一段高い倫理観が求められる立場にいる男です。

こういう立場にいる人間が、このような蛮行に及ぶと、その罰は一般人よりも重いものになるのだろうと思います。

ライオスの息子オイディプスが、後に受ける様々な苦難は、父ライオスの悪業の責(せ)めを肩代わりしているという部分があるのかも知れません。


3. クリュシッポス殺害事件


クリュシッポスは、この強姦事件の直後、刃物を使って自殺することを決意します。

信頼していたライオスから強姦されたという事実は、クリュシッポスにとって、到底受け入れられないものでした。

クリュシッポスがこれから自殺しようとしているところへ、ペロプスの妻ヒッポダメイアが偶然通りかかります。

ヒッポダメイアは、落ち込んでいるクリュシッポスから事情を聞き、表面的には自殺を思いとどまるよう説得します。

しかし、ヒッポダメイアの本心は、別のところにありました。
ヒッポダメイアは、クリュシッポスがこのまま自殺すれば良いと考えていたのです。

ヒッポダメイアは日頃から、夫ペロプスが一番愛している息子は、自分との間に生まれた王子たちではなく、非嫡出子のクリュシッポスであると感じていました。

ヒッポダメイアは、いずれ、クリュシッポスが、自分の生んだ息子を押しのけて、ペロプスの後を継いで王になるのではないかと考えていたのです。

そこで、正妻たるヒッポダメイアは、自分の生んだ息子の王位継承権を守るため、最有力候補者であるクリュシッポスが、この強姦事件を苦にして死ねばいいと考えたのです。

ところが、いったんは、死を決意したとは言え、少年クリュシッポスには、まだ死への恐怖と生への執着がありました。

クリュシッポスは、もう自殺するんだと言いながらも、グズグズしてなかなか実行に移そうとはしません。

そこで、ヒッポダメイアはライオスの犯行に見せかけて、クリュシッポスを刺殺したのです。

クリュシッポスは息絶える間際に、駆けつけた父ペロプスに向かって、殺害の実行犯は王妃ヒッポダメイアであることを明かします。

そして、この一連の事件の大元の原因を作ったのは、強姦の実行犯ライオスであることを伝えて、事(こと)切れました。

ライオスは、ペロプスからの信頼を失い、宮廷から追放されました。

さらにペロプスは、クリュシッポスを死に追いやったライオスに、大きな災いが降りかかるようゼウスに祈ったのです。


4. ただ一度の過ち


それから数年が経過し、テーバイでは、王アムピオンが自殺する事態となりました。

アムピオンが自殺した経緯については、2011年7月19日(火)の記事『Anicet Charles Gabriel Lemonnier『ニオベと彼女の子供たちを攻撃するアポロンとディアナ』 loro2012.blog.fc2.com』を参照して下さい。

アムピオン自殺の一報を耳にしたライオスは、異国からテーバイに戻り、王位に就くことになりました。

王となったライオスは、イオカステを妻に迎えます。

しばらくして、ライオスは、次のような不吉な神託を受けました。

「お前は、息子に殺されるであろう。」

この神託を恐れたライオスは、イオカステと閨房(けいぼう)を共にすることを避けていました。

妻と性交をしなければ、息子は生まれません。
息子さえ生まれなければ神託は無効となり、王としての自分の人生は安泰となるのです。

ライオスとイオカステは、夫婦でありながら性交をしないという禁欲的な生活を送っていました。

ところがある日、ライオスが酒に酔った勢いで、禁を犯します。
酒のせいで正常な判断力を失ったライオスは、ついにイオカステと性交に及んでしまったのです。

イオカステは、ライオスが酩酊しながらセックスを求めて来るのを、初めは拒んでいました。

しかし、しばらくセックスから遠ざかっていたイオカステは、久しぶりのセックスの誘惑には勝てず、あれほど恐れていた神託の件などすっかり忘れて、むしろ積極的にライオスのペニスを受け入れ、子どもが出来ても構わないと思って、ライオスが膣内に射精するよう促したのです。

イオカステは、結果的に、セックスの快楽に抗(あらが)うことが出来なかったわけですが、このイオカステの行動は責めることは出来ませんね。

セックスを連想させるような外部からの刺激がなければ、イオカステはセックスを我慢し通したと思います。

しかし、目の前に心を揺さぶられるような環境が出来上がり、その結果、抑えこんで来た性欲がついに歯止めを失って顕在化したとしても、それは、人間の女性として自然なことだと思います。


5. 捨て子事件


この性交の結果、月満ちて生まれたのがオイディプスです。

ただし、オイディプスという名前は、ライオスがつけたものではありません。
なぜなら神託の実現を恐れたライオスは、すぐにこの息子を亡き者にしようと考えたからです。

さすがに我が子を手にかけるということは、ライオスには出来ませんでした。
そこでこの赤子を、キタイロン山中に捨てることにします。

山中に放置しておけば、赤子ですから、そのまま死ぬということですね。

捨てる前にライオスは、赤子の踵(かかと)をピンで刺しました。

後数時間でこの赤子は死ぬはずですが、念のため、身動き出来ないように踵に傷をつけておいたのです。

そして、キタイロン山へ連れて行き、山中で放置するよう、侍者に命じました。


6. 腫れた足


ライオスの命を受けた侍者は、生まれたばかりの赤子を見ている内に、不憫に感じました。
そこで山中にいた羊飼いに赤子を託し、出来るだけ遠くへ連れ去るよう頼みました。

侍者は王の命令に逆らい、赤子を人手に渡したのですが、テーバイ宮廷に戻った後、この侍者は、王の命令通りに職務を遂行したと、虚偽の報告をしました。

これにより、ライオス、そしてイオカステの人生が大きく変わります。

特に、イオカステは、自分の生んだ赤子が死んだものと信じて、大いに嘆き悲しみました。

まさか将来、死んだと思っていた我が子が、自分の前に現れることになるとは、この時点では、夢にも思ってはいません。

羊飼いは侍者の意を受け、赤子をコリントスまで連れ去ります。

コリントスの王ポリュボス夫妻には、長い間子供がいませんでした。
そのことを知っていた羊飼いは、この赤子をポリュボスに献上したのです。

王と王妃は、喜んでこの赤子を引き取ることにします。

受け取った赤子は、踵が腫れていたので、ポリュボスは、応急処置を施します。
そして、そのことに因んで、この子はオイディプスと名付けられました。

オイディプスとは、腫れた足、という意味です。


7. 噂と神託


こうしてオイディプスは、コリントス王子として育てられることになりました。
オイディプスは、コリントス王宮で立派な王子として成長していきます。

ところがある日、嫌な噂を耳にします。

「オイディプスは、本当はコリントスの王子ではない。」

生まれてからずっとコリントス王宮で育てられたオイディプスにとっては、俄(にわか)には信じがたい噂です。

真偽について父母に問いただすと、二人とも噂については、きっぱりと否定してくれました。

しかし、一度疑念が生じると、簡単に拭い去ることが出来ません。
そこで真相を確かめるために、オイディプスはデルフォイでアポロンの神託を受けることにしました。

神託の内容は、以下のような思いがけないものでした。

「故郷に戻ってはならない。お前は父を殺し、母を妻とするであろう。」

この神託を実現させないために、オイディプスは両親の元には戻らないことにしたのです。
二度とコリントスに戻らなければ、神託は実現しません。

こうして、オイディプスはコリントスとは反対の方角へと歩み始めました。

出来るだけコリントスから遠ざかろうと、オイディプスが目指したのは、皮肉にも、テーバイへと続く道だったのです。

オイディプスはまだ知りませんが、テーバイこそ、オイディプスの本当の故郷です。

「故郷に戻ってはならない」と神託で言われたのに、オイディプスは、故郷へと向かってしまったわけです。

ギリシア神話では、神託は必ず実現するのです。


8. ライオスの懲りない男色癖


ライオスはオイディプスを捨てた後、妻イオカステとの性交を完全に断ちました。
次にまた子どもが生まれたら、山中に捨てるという同じことを繰り返すことになるからです。

その代わりに、ライオスはテーバイの美少年たちを閨房に呼び寄せ、夜毎の快楽に浸っていたのです。

ライオスは、クリュシッポス強姦事件で懲りるどころか、相変わらず少年たちとセックスをすることを楽しみとしていたわけですね。

ライオスは、まだ完全に大人の体になっていない少年の肛門にペニスを挿入し、少年が嫌がる様子を見て悦に入(い)るということを毎晩繰り返していました。

変態ですね。

妻のイオカステは、セックスを我慢する毎日に耐えているのに、夫のライオスは権力を振り回して、やりたい放題です。

2011年7月23日(土)の記事『ピーテル・パウル・ルーベンス『テレウスの宴』 loro2012.blog.fc2.com』にも書きましたが、権力者の性欲ほど、手に負えないものはありません。

男同士でセックスをしても、民族の繁栄を担う子どもは生まれません。

結婚を司る女神のヘラは、妻イオカステがいながらこのような男色生活を送っているライオスに対して、呪いをかけることにします。

ライオスの性生活のあり方は、ヘラから見ると、結婚という形態に対する冒涜だということですね。

結婚に限りませんが、セックスパートナーがいるのであれば、そのパートナーとセックスをするのが普通です。

ライオスにとって、妻イオカステは、れっきとしたセックスパートナーです。
性欲の溜った妻を一人寝させておいて、自分は男色にふけるというのは、男の側の横暴です。

ヘラのかけた呪いによって怪物スフィンクスが送り込まれ、ピキオン山頂に座すことになりました。

オイディプスが図らずもテーバイの街へと向かっていた頃、テーバイでは、スフィンクスによって多くの人が命を落としていたのです。

ヘラの呪いは、ライオス個人だけでなく、テーバイの街全体へと及んだわけです。
王の生き方が間違っていると、民が苦しむのです。

ドイツの画家フランツ・フォン・シュトゥック(1863-1928)は、人間の女性に似せてスフィンクスを描きました。

顔立ちや指先には、何やら不気味なものを感じますが、豊満な乳房は人間の女性のものですね。


9. 原題


フランツ・フォン・シュトゥック(Franz von Stuck)が描いた『スフィンクス』は、英語ではSphinxと言います。

この作品は、ドイツ南部の都市ダルムシュタットにある美術館(Hessisches Landesmuseum Darmstadt)で見ることが出来ます。





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