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フランシスコ・デ・ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』
記事URL  カテゴリ | その他絵画 | 2010年11月23日(火)12時17分 | 編集 |
記事のタグ: プラド美術館
2010年11月23日(火)


NHK教育テレビ『知る楽』月曜日の2010年2月~3月期は、『「怖い絵」で人間を読む』です。
第四回の主題は「戦慄の神話 ーゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』」です。

テレビでの放送日 2010年2月22日(月) 
講師 中野京子

第四回 目次

1. 父を殺すサトゥルヌス
2. 男根を切り取るサトゥルヌス
3. 我が子の体を食いちぎるサトゥルヌス
4. 勃起するサトゥルヌス


今日取り上げるのは、フランシスコ・デ・ゴヤ作『我が子を喰らうサトゥルヌス』です。

2010年11月23日フランシスコ・デ・ゴヤ1 617

1. 父を殺すサトゥルヌス


テキストではモノクロ写真が73ページに、カラー写真は巻頭に載っています。

『我が子を喰らうサトゥルヌス』は、スペイン語ではSaturno devorando a un hijoと言います。

サトゥルヌスとはローマ神話に登場する農耕神です。
ギリシア神話だとクロノスと同一視されています。

このサトゥルヌスは、大地の女神ガイアと天空神ウラノスとの間に出来た末息子です。

ガイアとウラノスはたくさんの子供達を産んでいくのですが、中には醜悪な存在もありました。

そのような子供たちは、見栄えが悪いという理由でウラノスによって大地の奥底へと埋められていきます。

しかし大地とは妻ガイアそのものです。

ガイアは激怒します。
気味悪い異形のものとは言え、ガイアにとっては自分が生んだ子であることには違いありません。

我が子を奈落の底に沈められて、ガイアが黙っているはずはありません。
しかも、そのような行為をしているのは夫であるウラノスなのです。

ウラノスを殺しなさい!

サトゥルヌスの父殺しは、彼の判断ではなく母ガイアの命令だったわけです。
息子は母の指示に従っただけです。

母ガイアはウラノス殺害のためにサトゥルヌスに大鎌を与えました。

この時代は毒殺なんていう手の込んだ殺し方はしません。
大鎌でバッサリです。

息子に切られたウラノスは、今わの際に「お前も、きっと子供に殺されるはずだ」という予言を残します。

こういった予言は効きますよね。
効果テキメンです。

悪を為したものは本能的に「タダでは済まない」ことを感じているのだろうと思います。
どんな凶悪犯であっても「報いがある」ことは肌で感じているのだろうと思います。


2. 男根を切り取るサトゥルヌス


ウラノスを殺害した後も、サトゥルヌスの狂気は続きます。
持っていた大鎌で父の男根を切り取り、大海原へと放り投げてしまいます。

なぜこんな凶行をしたのでしょうか?
常軌を逸しているからと言ってしまえばそれまでですが、普通、男根を切りますかね?

まあ、ウラノスは息絶えた後ですので痛みはなかったと思いますが、死者や死体に対する敬意というものは微塵も感じられません。

海を漂ったウラノスの男根は時間の経過とともにその姿を失い、やがて泡(ギリシア語でアプロ)となります。

そこから生まれたのがヴィーナスです。

ヴィーナスはギリシア名だとアプロディーテです。
アフロディーテという表記もありますね。

このヴィーナスが誕生してキプロス島の浅瀬に打ち上げられた瞬間を描いたのがサンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)です。

2010年11月23日フランシスコ・デ・ゴヤ2 197

ボッティチェリが描いた『ヴィーナスの誕生』はウフィッツィ美術館に収蔵されています。


3. 我が子の体を食いちぎるサトゥルヌス


ゴヤの作品においては、サトゥルヌスが子供を食いちぎっている場面が描かれています。

しかし原典である神話においては、サトゥルヌスは子供を食いちぎったのではなく呑み込んだことになっています。

ハデスやポセイドンなどの5人の子どもたちは、いったんはサトゥルヌスに呑み込まれてしまいました。

その後、末子であるゼウスが父サトゥルヌスと戦って勝利し、兄姉たちをサトゥルヌスの体内から吐き出させて救出したのです。

この神話の文脈を改変し我が子を食いちぎる父親に仕立て上げたのが、巨匠ピーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)です。

ピーテル・パウル・ルーベンスは、『フェリペ・プロスペロ王子』を描いたディエゴ・ベラスケス(1599-1660)と同時代を生きた人で、マドリッドにおいて二人は面識を持っています。

このルーベンスが、ゴヤ(1746-1828)と同じ表題の『我が子を喰らうサトゥルヌス』を描いています。

2010年11月23日フランシスコ・デ・ゴヤ3 710

ゴヤよりも200年も前にルーベンスは神話を自らの感性で解釈し直し、「呑み込む」のではなく「食いちぎる」という恐怖の世界を示しました。

このルーベンスの作品はプラド美術館の所蔵です。
恐らくゴヤはこの絵に接し何らかの影響を受けているものと思われます。


4. 勃起するサトゥルヌス


ゴヤの描いた『サトゥルヌス』には、当初は子供を食いちぎりながら勃起している様子が描かれていたそうです。
後に修正が施され、今となってはこの絵画の中にその描写を確認することは出来ません。

自分を見失った者は心が歪み肉体が闇に溶けていくかのような錯覚にとらわれ、自らの存在すらも認識出来ない状態に陥るから蛮行に及ぶのかも知れません。

けれど、その渦中にありながらも自分の遺伝子を残したいという本能が強烈に顕在化し、所構わず勃起するという醜態を晒す・・・。

そんなに自分の遺伝子を残したいんだったらその凶行を思い止まればいいのですが、理性が失われているからそれも叶いません。

子どもが自分の命を狙うかも知れない、この猜疑心にとらわれて実子殺しを実行したのがゴヤの描く『サトゥルヌス』です。

自らが父を殺したという過去を持つ以上、我が子が自分に刃を向けることは想像に難くないから殺られる前に殺るという理論なんでしょう。

しかも自分は父の男根を切り取っています。
ということは、自分も同じ目に会うかも知れません。

子供を生かしておいたら、きっとそうなるはず・・・。
決して解くことの出来ない呪いをサトゥルヌスはかけられてしまったようです。


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