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ドミニク・アングル『トルコ風呂』
記事URL  カテゴリ | その他絵画 | 2010年09月20日(月)12時06分 | 編集 |
記事のタグ: ルーヴル美術館
2010年9月20日(月)


テレビでの放送日:2010年5月24日(月) 番組名:名画への旅(NHKBShi)

目次
1. ナポレオン3世の時代
2. 『浴女』と『トルコ風呂』の相違点
3. 乳房に触れる左手
4. 原題


今回取り上げる作品は、ドミニク・アングル作『トルコ風呂』です。

2010年9月20日ドミニク・アングル『トルコ風呂』1 334

1. ナポレオン3世の時代


ドミニク・アングル(1780-1867)は、1808年に制作した『浴女』のモデルを、後年別の作品でも描いています。

2010年9月20日ドミニク・アングル『トルコ風呂』2 505

その作品が、1862年に制作された『トルコ風呂』です。
この絵画が完成した時には、ドミニク・アングル(Dominique Ingres)は80歳を超えています。

フランスは、数度の革命を経てナポレオン3世(在位:1852-1870)が統治する世の中になっています。

この作品に描かれている女性たちは、トルコ人という設定になっています。
但し、アングルはトルコへ行ったことはありません。

従ってアングルは、この登場人物たちを見た上で作品を描いているわけではありません。
あくまでも文献資料に基づいて、トルコの女性は恐らくこうなのではないかという空想力で描いた作品です。

アングルには、トルコあるいはオリエント世界への憧れがあったようです。

東洋人がヨーロッパ文化に強い関心を示すように、西洋人が異質の文化に興味を抱くのはごく自然なことだと思われます。

この作品の前景には、官能的な背中を見せて楽器を弾いている女性が描かれています。
どこかで見たことがあると思ったら、『浴女』のモデルと同一人物です。

アングルが20歳代で描いた『浴女』の中の女性が、そのままの若く美しい姿で50数年後の作品に再び現れたわけです。

半世紀という長きにわたり、アングルの心の中にはこの女性が生きていたのでしょうね。


2. 『浴女』と『トルコ風呂』の相違点


『浴女』の女性と『トルコ風呂』で背中を見せている女性には、決定的に違う点が三つあります。


1) 左の乳房


『トルコ風呂』においては、女性の左肘が上がっています。
そのため、左の乳房の約3分の1が脇の下から溢(こぼ)れるように描かれています。

『浴女』の時にも、この豊かな乳房は存在したわけです。
しかし女性が脇を締めていたために、残念ながら見ることが出来なかっただけです。

彼女の周囲にいる女性たちは、あからさまに両乳房を晒しています。
いくら美乳とは言え、ここまで露(あらわ)にされてしまうとあまり有難味が感じられません。

対照的に「片乳」を3分の1だけ見せるという有様は、この空間における稀有な存在として認識されます。

そして乳房の全貌が見えないが故に、見ている者の性的興奮はより一層煽(あお)られることになるのです。


2) 肉付きの良い腰回り


『トルコ風呂』においては、女性の膨(ふく)よかな腰回りも露(あらわ)になっています。
女性のふっくらした下腹部は、いつの時代でも人類の豊かさの象徴です。

そして芸術作品においては、乳房と共に豊満な下腹部が女性らしさを表現するための重要な部位であると認識されてきたわけです。

アングルが『トルコ風呂』の女性に楽器を持たせた一つの理由は、脇の下を開放するためだったのです。

それによって、「少しだけ」見せるという「最も刺激的な」肉体描写が可能になったわけですね。


3) 開脚


『トルコ風呂』においては、女性は楽器を奏でるために大胆にもその脚を広げています。

作品に描かれた他の女性たちの大半は、膝を閉じています。
ところがこの主役の女性は、鑑賞者に背を向けているとは言え股間を開いているわけです。

女性が股間を開く瞬間というのは、そうそう見られるものではありません。

アングルは女性の持つ性的魅力を、真正面からではなく背後からの視線で描きました。
そのことが、かえって見る者の想像力を逞しくすることに繋がっているのです。

この女性の開かれた股間は、残念ながらこちらからは見えません。

風呂場という湿り気のある環境で、女性の股間がどんな反応を示しているのか・・・、
それを空想させる構図が、ここに完成したわけです。


3. 乳房に触れる左手


画面向かって右側に、ネックレスをした女性の右の乳房を、左手で愛撫している女性が描かれています。

この右側の女性は、顔と手しか描かれていませんね。
乳房などは見えません。

右の乳房を揉まれている女性は、向かって右隣の女性に体を預けてしなだれています。
右側の女性は、左手では豊かな乳房を愛撫し、同時に右手を背中に回して指先で刺激を与えています。

両手を使って女性の体の二箇所を同時に愛撫するというのは、男の発想ですね。

一方、向かって左の腕組みをしている女性は、背筋を伸ばして毅然とした表情を示しています。
この女性は豊かな乳房の持ち主ですが、近寄りがたい雰囲気を持っていますね。

左隣で行われている二人の淫らな行為には、まるで関心が無いようです。
首飾りをしていないということは、男に対してもあまり興味を示さない女性なのかも知れません。

この作品は当初、四角形で描かれていました。
しかし女性たちの丸みを帯びた肉体の柔らかさを強調するために、四隅が丸く切り取られました。

そして、最終的にこのような円形の仕上がりに落ち着いたわけです。
アングルの意図は、見事に当たったと言えるでしょう。


4. 原題


『トルコ風呂』は、フランス語ではLe Bain turcと言います。

turcは形容詞で、トルコの~、という意味です。
le bainの語義は、風呂、でしたね。

この作品も『浴女』同様、ルーヴル美術館(Musée du Louvre)の所蔵となっています。

アングルのシリーズは以上です。




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